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Q4-1 租税訴訟とはどのようなものでしょうか。

租税訴訟とは、租税に関する訴訟すなわち、租税法律関係に関する訴訟のことであり、いわゆる「税務訴訟」のことで、①租税賦課処分に関する課税訴訟、②租税の徴収に関する徴収訴訟、③違法な質問調査検査行使等を理由とする国家賠償請求訴訟、とに大別されます。


 

解説

 

租税訴訟とは、いわゆる税務訴訟のことであり、税金つまり租税に関する訴訟一般を指します。国税通則法114条を見ると、「国税に関する法律に基づく処分に関する訴訟」という表現がありますが、これはこれで1つ参考になるものといえます。なお、租税訴訟について、金子教授は、「租税争訟は、納税者の権利保護の観点から、きわめて重要な意味を持っており、租税争訟制度の確立は、租税法律主義の不可欠の要素である。」と述べていますが(金子宏著「租税法」代16版827)、正当な指摘といえるでしょう。

 

租税訴訟は、①更正処分等租税賦課処分に関する課税訴訟、②租税の徴収に関する徴収訴訟、③違法な質問検査権行使や賦課徴収処分等によって被った損害の賠償を求める国賠訴訟、に大別され、上記①、②については行政訴訟、上記③については民事訴訟に分類されます。一般に租税訴訟といった場合にイメージされているのは、更正処分の取消し等を求める課税訴訟ということになろうかと思われます。

 

租税訴訟とは

 

租税法律主義

租税訴訟の判決においては、よく「租税法律主義」という言葉が用いられます。租税法律主義とは、租税の賦課・徴収は法律の根拠に基づいてなされなければならない、というものです。これは憲法が明確に要請するところであり(憲法84条)、これを厳格に解するかそれとも緩やかに解するかによって、納税者側救済の程度が異なってくることになります。もちろん、時代の趨勢は租税法律主義の厳格解釈・厳格適用にあるように思われ、近時の最高裁判決に照らせば最高裁もその方向性自体は支持しているものと理解されますが、多義的な価値基準・概念であることから、今後も留意が必要しょう。

 

総額主義と争点主義

租税訴訟を理解する上で、基本的な考え方の違いとして、「総額主義」と「争点主義」というものがあります。総額主義とは、確定処分に対する争訟の対象はそれによって確定された税額(租税債務の内容)の適否であるとする考えであり、また、争点主義とは、確定処分に対する争訟の対象は処分理由との関係における税額の適否であるとする考えです。総額主義が判例・裁判例の立場ですが、金子教授は争点主義を基本に考えておられるようです(金子宏著「租税法第16版832頁以下)。

Q4-2 どのような場合に租税訴訟を提起したらよいのでしょうか。租税訴訟を提起することのメリット、デメリットについて教えてください。

A

質問検査権に基づく調査(税務調査)を受けて修正申告の慫慂をされてもなお事実上も法律上も納得できず、かつ、課税庁側の見立てを覆すそれ相応の事実関係(事情)とこれを支える証拠関係がそろっているときに、裁判を起こす、つまり、租税訴訟を提起します。租税訴訟提起のメリットは、払いすぎた税金が戻ってくること、デメリットは、時間と費用を要することです。
 

解説
 

租税訴訟は裁判ですので、訴状に貼る印紙代や弁護士・税理士に支払う着手金等の費用がかかります。また、東京地裁行政部における審理のスピードが格段にアップしたとはいっても、それでもなお訴訟提起から判決まで最短で1年は要します。しかも、いわゆるビジネス・口一としての租税訴訟においては勝訴率が上がってきているとはいっても、課税庁側に勝訴するのはやはり極めて大変なことであることには変わりがありません。
 

したがって、「課税庁側の見立ては事実認定・法律解釈として誤っており納得できないので最後まで戦い抜く」という納税者側の確固たる覚悟・決意があり、かつ、課税庁側の見立てを覆せそうな相応の事実関係、これを支える証拠、法的見解がある場合にのみ、租税訴訟を提起すべきでしょう。払いすぎた税金が戻ってくるかもしれないという甘い期待に重きを置くことは禁物です。ハイレベルの戦いがハイレベルの審判の下でされるのですから、貸金返還請求訴訟のような通常の民事裁判と同様に考えてはなりません。時間が経営資源であることにかんがみれば、訴訟準備に割かれる時間を考慮してもなお戦い抜くという納税者側の強い意識が必要不可欠に思われます。
 

もっとも、課税庁側の見立てを覆せそうな「相応の」事実関係、法律解釈、そしてこれらを支える証拠があるのであれば、上記納税者側の固い決意の存在を前提に、訴訟に踏み切ってみる価値はあろうかと思います。そもそも、租税訴訟における主張立証責任は、原則課税庁側にあります。また、事実関係の立証の成否、証拠の評価はやってみないと分からないという面もあります。したがって、事実関係、法律解釈、証拠価値の事前の十全な精査・検討が必要であることはもちろんですが、上記精査検討に基づいて「常識に照らしてどう考えても どう考えてもおかしい」と判断される場合には、裁判所の判断を仰いでみるというのも選択肢としてありかと思います。
 

租税訴訟のメリット・デメリット

メリット

 ・払いすぎた税金の取り戻し

 ・納税者側の納得

デメリット

 ・費用が掛かる

 ・時間を要する
 

ビジネス・ロー(ビジネス・マーケット)としての租税訴訟

最近では、講演会などにおいて、「租税訴訟分野はビジネス・口一(ビジネス・マーケット)化されてきた」などとよくいわれます。要するに、大企業や有名企業を原告とする大型・国際租税訴訟、活発に事業活動を行う中小企業や高額所得者を原告とする高額租税訴訟が増えてきた、ということなのだろうと思います。確かに、このような傾向は見られるところであり、このような裁判においてはいわゆる大手渉外弁護士事務所が単独または共同で原告訴訟代理人を担当して、課税庁側(国)と華々しく戦っています。租税訴訟がいわば「稼げる」訴訟分野になるなど、20年前には考えられなかったことですが、上述したような傾向が租税法の解釈を深くかつ新たにしている側面もあり、「租税訴訟のビジネス・口一化」はそれなりに評価されるべきものと思われます。
 

還付加算金

国税局長、税務署長等は、還付金等があるときは、遅滞なく金銭で還付しなければならず(国税通則法56条1項)、還付する場合には、その金額に7.3%の割合を乗じて計算した金額を加算して還付しなければなりません(同法58条1項)。もっとも、租税特別措置法95条、93条によって、現時点では、特例基準割合である年4.3%が加算されることになっています。そこで、いわゆる武富士訴訟においては、納税済み額約1,3OO億円に当該特例基準割合および年数を乗じた額である約400億円もの巨額の還付加算金が支払われるということになったわけです。どうやら還付金総額では毎年7〜8兆円もの支払を国は行っているようですが(日経新聞電子版2011年5月16日付け記事)、市場金利との乖離は明らかであり、今後は、延滞税率も含め、この加算率の合理性が議論されていくことになりましょう。

Q4-3 租税訴訟を起こして勝てるのですか。

勝訴判決を得るのは容易なことではありません。なお、平成22年度における終結件数は354件で、そのうち納税者側の請求が認められた割合は7.6パーセントとなっています。


 

解説

 

租税訴訟は、課税庁(国)という租税のプロを相手に、行政部裁判官という租税訴訟を含む行政訴訟のプロの審判の下、戦う訴訟なのです。もちろん、通常民事訴訟のように和解で折り合いを付けるという決着などもありません。このように課税庁という強敵相手のプロの熾烈な戦いの後に白黒はっきりつけるのですから、そう易々と勝てるはずがありません。

 

実際、国税庁レポート2011においては、納税者側勝訴率(-部勝訴を含む。)として上述した7.6%という数値が示されていますし(同48頁)、納税者側勝訴率は、右記グラフのとおり、平成18年の17.9%をピークに下降傾向にあるように読み取れます。

 

もっとも、東京地裁行政部に係属するようないわゆるビジネス・口一としての租税訴訟を見る限り、LPS訴訟判決などに明らかなように、体感的には勝訴率は上がっているように感じられます(きちんとした訴訟代理人が就任している相応の租税訴訟においては、勝訴率は20パーセントを優に上回るのではないでしょうか。)。また、最高裁は、武富士巨額訴訟判決に顕著なように、租税法律主義を明確に意識し、納税者側逆転勝訴判決をいくつか出し始めています(なお、上記武富士判決後の最高裁の動向には要注意です。)。

 

こうしてみますと、公表されている数値は決して看過できないが、ことビジネス・口一としての租税訴訟に関する限り、そして、最高裁まで見据えた場合、その勝訴率は決して訴訟提起を躊躇させるに足りるものではない、と結論づけられましょう。

 

なお、租税訴訟においては、原則として、和解というものがありません。和解処理というのは極めて特殊な事例における特殊な対応ということになります。

 

Q4-4 租税訴訟はどのくらいの期間続くのですか。

A

最短で約1年、長くなると2年以上掛かります。


 

解説

 

東京地裁を前提として、提訴から第1回口頭弁論期日までが約2~3カ月、準備書面のやりとりを原告・被告双方が2回ずつ行って合計4期日、1期日間隔を2カ月、証人尋問等の人証調べ期日なし、判決まで3~4カ月、と仮定しますと、計算上は13カ月で判決をもらえることになりますが、これはかなり早いペースということになりましょう。

 

東京地裁行政部は3ヵ部しかなく裁判所にかなりの負荷が掛かっていて期日が入りづらいこと、課税庁側は決裁制度を前提とするために2ヵ月以上の準備書面作成期間を要求してくることもあること、原告被告双方が主張立証を尽くすという名目の下にいわば書面合戦を繰り返すこともあること、などの事情に照らせば、やはり2年弱は覚悟しておいた方がよいかと思います。

 

これに、場合によっては、上訴審、つまり、高裁における控訴審および最高裁における上告審が加わるわけですから、2年半はみておいた方がよいということになり、結局、3年がかりの訴訟沙汰ということになります。

 

現時の経済情勢と企業活動のスピードを考えれば3年なんて途方もなく遅いと思われ、原則として期日を3回に絞り込む労働審判手続等を参考にすればもっと裁判期間の短縮を図れるのではないかと思うのですが、-審(地裁)段階だけでも数年がざらだった10年前に比較すれば飛躍的に短縮されているのですから、あまり文句は言えません。

 

ここは、被告課税庁側の書面提出期限を次回期日の3週間前にしてもらった上で、原告訴訟代理人は極力同期日までに反論の書面を提出するようにするなど、原告側(納税者側)において今のところは工夫するほかないと思われます。

 

Q4-5 租税訴訟が通常の民事裁判と異なる点について教えてください。

A

租税訴訟は行政訴訟の一類型であり、行政訴訟は民事訴訟の一類型ですから、その意味では、通常民事訴訟と異なるところはありませんが、行政訴訟そして租税訴訟ゆえの特殊性に起因する差異が生じることとなります。

 

 

解説

 

租税訴訟は、民事訴訟の一類型である行政訴訟の一類型として、民事訴訟のひとつであることには変わりがありません。したがって、行政事件のための特別の手続法である行政事件訴訟法の適用なき限り、通常民事訴訟と同様に取り扱われることになります(行政事件訴訟法7条。なお、行政訴訟としての租税訴訟については、その特別法としての国税通則法が行政事件訴訟法に優先して適用されます(国税通則法114条)。)。つまり、租税訴訟においても、通常民事訴訟と同様、民事訴訟法が適用されることになります。

 

もっとも、これを言い換えれば、租税訴訟においては、その特殊性ゆえ、行政事件訴訟法や国税通則法が適用されます。行政事件訴訟法や国税通則法といえば、弁護士等法曹の中でもいわば「難解な法律」として毛嫌いされており、その条文部分の六法全書を開いたことがないという法曹すらいてもおかしくないほどではありますが、テクニカルな問題があるだけで、条文数も少ないし、表面的に理解する分にはさほど難しいものではありません。

 

これら特別法が適用されてこれによって法律関係ないし法手続関係が規定されることが、通常民事訴訟との違いということになります。

 

実際上の違いというと、東京地裁の場合、通常民事訴訟については通常部で審理されるのですが、租税訴訟については行政部で審理されるという違いが出てくることになりますが、この点は後述します。
 

 

訴訟類型概略図

 

租税訴訟の適用法律関係

 

  国税通則法(更に特別法)

       ↑

  行政事件訴訟法(特別法)

       ↑

  民事訴訟法(一般法)

Q4-6 租税訴訟はどこで裁判が開かれるのですか。また、どこで裁判を起こした方がよいのですか。

A

東京地裁に訴訟提起されることを前提とすれば、東京地裁行政部においてい て第一審が、東京高裁において控訴審(第二審)が、最高裁において上告審が、それぞれ審理されることになります。また、どこで訴訟提起した方がよいというこうことはありませんが、専門性の高さと審理期間の短さという意味では、東京地裁への訴訟提起が望ましいといえるかもしれません。

 

解説

 

裁判所の概要は図のとおりですが、我が国には、50の地裁、Bの高裁、そして最高裁があります。

租税訴訟は国を被告とする訴訟であり(行政事件訴訟法11条1項)、国を代表する法務大臣大 臣(民事訴訟法4条6項、「国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律」(法務大臣権限法)1条)は東京に所在することから(民事訴訟法4条6項、法務大臣権限法.1条)、租税訴訟はすべから<東京地裁に係属させることが可能であり(行訴法12条1項)、そこで、東京地裁に租税訴訟が係属したと仮定すると、まずは、東京地裁行政部において第一審が審理されることになります。東京地裁行政部は、2部、8部、38部の3ヵ部であり、ここで行政訴訟のプロ中のプロの裁判長の下で、被告である課税庁側(国)と主張立証の応酬をします。

 

その結果に不満があり、かつ上訴に耐えると判断されれば、敗訴した側から東京高裁に控訴がなされます。東京高裁においては、行政部というものが特別にあるわけではないので、いずれかの部で判断されることとなるのですが、ここは行政訴訟プロパーの裁判長でないことが多々あり、武富士巨額訴訟控訴審のように、果敢に地裁判決をひっくり返すということもとも散見されます。

 

その結果に不満があり、かつ上告理由ないし上告受理申立て理由があると判断され、かついまだに訴訟遂行意欲と能力が高いとなれば、敗訴した側から最高裁に上告がなされます。最高裁は書面審理であり、高裁判決をひっくり返す場合でもない限り、弁論期日すら開かれません。

 

このような基本構造はどこの裁判所を一審裁判所としようと変わるところはありませんが、あえていうなら、東京地裁に訴訟提起すべきでしょう。つまり、たとえば、熊本に居住する方が熊本税務署長の更正処分を受けた場合であれば、熊本地裁に提訴することも(行訴法12条1項)、福岡地裁に提訴することも(行訴法12条4項)、そして東京地裁に提訴することも(行訴法12条1項、11条1項)、いずれも可能ではありますが、専門性の高さ、判決文の素晴らしさ、審理期間の短さという意味でも、また、仮に納税者側が勝訴した場合の課税庁側への説得力の強さ(上訴のしにくさ)、逆に納税者側が敗訴した場合の「東京地裁行政部でこう言われるなら仕方がない」というその納得という意味でも、東京地裁への提訴がお勧めであろうと思われます。

 

裁判所の概要

Q4-7 租税訴訟はどのように提起するのですか。

A

裁判所に訴状を提出します。訴状には、当事者および法定代理人並びに請求の趣旨および原因を記載しなければなりません。

 

 

解説

 

租税訴訟に限らず、民事訴訟は、原則として、訴状を裁判所に提出することによって始まります(民事訴訟法133条1項)。訴状とは、訴えの内容を記した書状、つまり自分が裁判所に判断してもらいたいと考える法的紛争の内容を記載した書面であり、処分権主義の下、これを提出することによって民事裁判はスタートし、また、裁判所は、原則として、この訴状で提示された法的紛争の範囲に限って判決をすることになります(同法246条)。

 

訴状には、当事者および法定代理人並びに請求の趣旨および原因を記載しなければなりません(同法133条2項)。

 

請求の趣旨とは、自己が求める裁判の結論のことであり、判決主文で書いてもらいたいことのことです。租税訴訟においては、たとえば、更正処分の取消しを求める場合なら、「被告が平成〇年〇〇月〇日付けでした原告の平成〇年分〇〇税の更正処分のうち総所得金額〇円、納付すべき税額〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。」と記載しますし、国賠の場合なら、「被告は、原告に対し、金〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌Eから支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。」と記載します。

 

また、請求の原因とは、請求を特定するのに必要な事実のことです(民事訴訟規則53条1項)。これらのほか、請求を理由づける事実を具体的に記載し、かつ、立証を要する事由ごとに、当該事実に関連する事実で重要なものおよび証拠を記載しなければならず(同条1項)、訴状に事実についての主張を記載する場合には、請求を理由づける事実についての主張と当該事実に関連する事実についての主張とを区別して記載しなければなりません(同条2項)。

 

このように、裁判の中身を確定させる大事な訴状を作成するにあたっては少し法的テクニックのようなものが必要とされることから、弁護士が代理人となる必要が出てくるわけです。


 

処分権主義

 

処分権主義とは、訴訟の開始、審判の対象・範囲、訴訟の終了についての処分の自由を当事者に認める原則のこと(兼子一原著/松浦馨・新堂幸司・竹下守夫・高橋宏志・加藤新太郎・上原敏夫・高田裕成著「条解民事訴訟法」1335頁)、つまり、「訴えなければ裁判なし」、民事裁判の中身をどうするかは当事者の意思によるし、その裁判を始めるも終わりにするも当事者の意思による、ということです。だからこそ、原告は請求の基礎に変更がない限りは口頭弁論の終結に至るまでいつでも請求または請求の原因を変更することができますし(民事訴訟法143条1項本文)、また、訴えは、判決が確定するまで、その全部または-部を取り下げることができますし(同法261条1項。しかも、訴えの取下げがあった部分については、訴訟は初めから係属していなかったものとみなされます(同法262条1項)。)、また、請求の放棄若しくは認諾または和解をしてこれが調書に記載されたときには確定判決と同一の効力を有し(つまり、これにて裁判は終了です。同法266条1項、267条)、しかも、いかに優秀な裁判所といえども原則として当事者が求めていること以外について判決をすることはできません(同法246条)。そもそも民事訴訟の対象となる法律関係は当事者の自由意思・処分にゆだねられているのであり、処分権主義は、このような私的自治の原則に照らせば当然の帰結であり、したがいまして、近時の検察官証拠ねつ造国賠訴訟において国が請求の一部を認諾したことに批判的な論評が散見されましたが、これは処分権主義に支配された民訴法を正解しないものといえるでしょう。

 

Q4-8 租税訴訟にはどのような種類があるのですか。

A

(1)民事訴訟として、①国賠訴訟、②徴収訴訟、③争点訴訟、(2)行政訴訟として、①取消訴訟、②無効等確認訴訟、③不作為の違法確認訴訟、④過誤納金還付請求訴訟、⑤租税債務(債権)不存在確認訴訟等、があります。

 

解説

 

詳細は図のとおりとなりますが、上述のとおりの訴訟類型に区分されます。

 

この中でも、代表的なのは、なんといっても取消訴訟、つまり更正処分等の取消しを求める取消訴訟です。これが租税訴訟の大半を占めるといっても過言ではありません。したがいまして、租税訴訟においては、法定抗告訴訟としての取消訴訟をまずは意識しておけば足りるといえるでしょう。

 

また、国家賠償請求訴訟(国賠訴訟)もそれなりに提訴されますが、請求額、その認容額に限界があり、おおむね事実認定論で済むことを考えれば、租税訴訟においては派生的訴訟と位置付けてもよいかと思います(もっとも、違法な質問検査権行使に墓づいて入手された資料に墓づく更正処分等の適法性については、手続的観点からの別途検討が必要です。)。

 

面白いのは徴収訴訟です。これには、数は少ないですが、国自らが原告となる差押債権取立訴訟や詐害行為取消訴訟等が含まれますし、また、国を被告とする差押登記等抹消登記手続請求訴訟が含まれます。

 

 

租税訴訟の類型

Q4-9 弁護士はどのようにして選べばよいのですか。

A

行政訴訟、租税訴訟に精通した弁護士を選任するのが相当でしょう。


 

解説

 

租税訴訟は民事訴訟をベースにしているものではありますが、行政事件の一類型としてかなり特殊な面があります。また、東京地裁においては、それ専門の行政部において、かなりプロフェッショナルでかつ時間的にもタイトな作業が要求されます。加えて、相手方は、税の専門家中の専門家である課税庁とその代理人たる法務省訟務部門なのです。してみれば、通常民事訴訟と同様に顧問弁護士さんに気軽にお願いすることが相当でないことは明々白々といわざるを得ません。上述したように、覚悟を決めたなら、その道のプロの弁護士に依頼する方が無難といえるでしょう。

 

依頼するには、ネットという手段もありますが、玉石混淆の感は否めないので、顧問税理士・会計士に相談して紹介してもらうというのが一番よいでしょう。これらの方々は、勉強会、講習会等各種の集まりを通じて、幅広いネットワークを有しています。ここからの紹介でつてを探っていくというのが最も合理的と思われます。

 

なお、税務専門の弁護士事務所は敷居もフィー(弁護士費用)も高いとの懸念があるかもしれませんが、そんなつまらない「敷居」など一顧だにする必要はありませんし、また、フィーについては、租税訴訟の裾野が広がっていることに伴い、だいぶ低額化ないし成功報酬に比重を置くようにされているようです。

 

 

Q4-10 補佐人税理士とはどのようなものですか。補佐人税理士を付けた方がよいですか。

A

補佐人税理士とは、租税に関する事項について裁判所において補佐人として弁護士とともに出廷して陳述する税理士のことです。現時の租税訴訟においては、補佐人税理士は必須といえるでしょう。


 

解説


税理士は、租税に関する事項について、裁判所において、補佐人として、弁護士である訴訟代理人とともに出廷し、陳述をすることができます(税理士法2条の2第1項)。弁護士は、税理士になる資格を有するとはいっても登録しない限りは税理士ではありませんし(なお、税理士業務を行うことができる通知税理士という制度がある(同法51条)。)、税法を勉強して租税訴訟を担当しているとはいっても税理士のように日常的に税理士業務を行って各税法および関係涌違い並びに税務行政実務等に精通しているわけではありません。そこで、訴訟のプ口としての弁護士と税務のプロとしての税理士とが協働して租税訴訟を遂行していく必要があるのです。


 

実際、被告(国)側は、訟務検事と国税出身の訟務官とが協力して知恵を出し合って、租税訴訟にあたっています。租税訴訟のプロ中のプロである被告側がタッグを組んでやっているのに、原告側が弁護士だけでは、それがいかに優秀な弁護士であろうとも、やはり一抹の不安が残るというものです。弁護士としての視点と税理士としての視点、この2つの視点から複眼的に事件を見るという作業が、勝訴のためにはやはり欠かせないものと思われます。


 

この点、松沢智教授は、「・・・弁護士側において、十分な租税法の解釈・適用に熟達していなければならない。そのためにも、租税法に精通している『法律家』としての税理士と共同して税務訴訟に対処することが適正・迅速な裁判のためにも必要」と述べておられますが(小川英明・松沢智・今村隆編「新・裁判実務体系租税争訟」162頁)、そのとおりといえるでしよう。


 
 

訟務検事と国税訟務官

課税庁(国)側の代理人として出廷するのが、訟務検事と国税訟務官です(まれに弁護士が訴訟代理人として出廷することがあります。)。「国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律」(法務大臣権限法)により、国を当事者等とする訴訟等については訟務制度が採用され、指定代理人たる訟務検事および訟務官がその訴訟を遂行することとされています(同法2条、9条、5条1項、6条1項)。

 

訟務検事は法曹資格を有した法務省・法務局所属の検事であり、裁判官および検察官の混成部隊となっています。訟務宮は、法務局および各省庁の職員の混成部隊であり、租税訴訟においては、各国税局等の国税訟務官および国税局から出向してきた職員(訟務官)が中心となって訴訟を遂行します。訟務検事といっても、通常民事・刑事裁判の裁判官、窃盗や殺人といった通常刑事事件の検察官であり、配属された当初はそのほとんどが租税訴訟の素人であるのですが、訟務に入って切嵯琢磨して、また東京地裁行政部等の厳しい手ほどきを受けて、租税訴訟のプロになっていきます。

Q4-11 租税訴訟における実際の裁判はどのように進行するのですか。

A

①訴状提出、②答弁書提出、③準備書面によるやりとり、書証の取調べ、④争点および証拠の整理、⑤証人尋問・原告本人尋問の実施、⑥最終弁論、⑦判決、というのが基本的な訴訟進行となります。

 

解説


概略は「租税訴訟における第一審の審理手続きの流れ」のとおりであり、基本的には書面のやりとりと証拠書類(書証)の取調べで裁判は進行することとなります。

 

もっとも、とりわけ租税訴訟においては、昔の民事裁判のように「準備書面を陳述いたします。追加主張は追って準備書面をもって行います。」では終わらないので注意を要します。原告代理人弁護士は補佐人税理士に頼ることなく、また、被告国指定代理人訟務検事は国税訟務官に頼ることなく、裁判長からの指摘、下問に対してはその場で自分の言葉で答えられねぱなりません。代理人は、当該事件の事実関係を丸々把握し、必要な法律関係、法律解釈を十全に理解しておかねばならないのです。これこそが租税訴訟の醍醐味といえるでしょう。


 

なお、原告本人にとって気になるのは、原告本人尋問と思われます。それまでは代理人弁士らに裁判を任せて結果の報告だけ受けておけばよかったのですが、ここだけは原告本人自尋らが出廷して衆人環視の公開の法廷で陳述せねばなりません。証人となる原告側関係者も同様です。


 

もっとも、租税訴訟においては、暴行等違法行為の有無、その程度が問題となるよような国賠訴訟は別にして、原告本人尋問や証人尋問が行われることはさほど多くないように思われますし、また、仮に尋問が行われるとなってもきちんと訴訟代理人と打合せを実施していれば恐れることはありません。その意味では、尋問の場面でこそ、訴訟代理人の真価が問われるといえるでしょう。


 

 

租税訴訟における第一審の審理手続きの流れ

【租税訴訟における第一審の審理手続きの流れ(一例として)】


 

平成24年1月1日  訴え提起(訴状の提出)

 ↓

訴状審査

 ↓

第1回口頭弁論期日の指定

 ↓

2月1日  訴状の送達

 ↓

4月1日  第1回口頭弁論(訴状、答弁書各陳述、書証の申出・取調べ)

 ↓

6月1日  第2回口頭弁論(被告準備書面(1)陳述、書証の申出・取調べ)

 ↓

8月1日  第3回口頭弁論(原告準備書面(1)陳述、書証の申出・取調べ)

 ↓

10月1日  第4回口頭弁論(双方準備書面(2)各陳述、書証の申出・取調べ)

 ↓

12月1日  第5回口頭弁論(争点および証拠の整理、人証申出・採否決定)

 ↓

平成25年2月1日  第6回口頭弁論(証人尋問、原告本人尋問)

 ↓

4月1日  第7回口頭弁論(双方最終準備書面各陳述、弁論終結)

 ↓

7月1日  判決言渡し

 ↓

7月15日  控訴(控訴書の提出)


 
 

 

民事裁判の手続きの流れ

Q4-12 判決とはどのようなものですか。判決に不満があるときにはどうしたらよいですか。

A

判決(終局判決)とは、当該審級における裁判所の最終判断を意味します。これに不満がある当事者は、上級審に対して上訴(控訴、上告)することができます。


 

解説


裁判所は、訴訟が裁判をするのに熟したときは、終局判決をします(民事訴訟法243条1項)。これがいわゆる「判決」です。裁判所は、口頭弁論の全趣旨および証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により、事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断し、当事者が申し立てた事項に限って、判決をします(同法247、246条)。

 

そして、原告の請求に理由があると判断されれば請求の趣旨に沿った主文が、原告の請求に理由がないと判断されれば「原告の請求を棄却する。」との主文が、それぞれ裁判長によって読み上げられることとなります(民事訴訟規則155条1項)。

 

判決は言渡しによってその効力を生じます(民事訴訟法250条)。判決の言渡しは、原則として、口頭弁論の終結の日から2月以内にしなければなりませんが(同法251条1項)、租税訴訟においては2ヵ月以上の期間を要することも少なくないように思われます。

 

判決の言渡しは、当事者が在廷しない場合においてもすることができます(同条2項)。実際には、特殊な事件を除き、当事者が在廷する(つまり法廷内に着席する)ことはまれであり、複数の事件について事件番号・当事者名・主文が次々と読み上げられるだけです。

 

終局判決に不服のある当事者は、上訴、つまり、地裁の終局判決については、高裁に対して控訴を、高裁の終局判決については、最高裁に対して上告(上告受理申立て)を、それぞれすることができます(同法281条1項本文、311条、318条)。

 

この場合には、いずれも、判決書の送達を受けた日から2週間以内という短期間に、控訴状・上告状・上告受理申立書を原裁判所に提出しなければなりません(同法285条、313条、314条1項、318条5項)。したがって、不服のある納税者側は、14日という短期間に上訴の可否を代理人弁護士・補佐人税理士と協議することとなります。

 

当事者にとって気になるのは、裁判官(裁判所)によって判決が異なるのか、ということでしょう。武富士巨額訴訟判決において地裁(納税者側勝訴)・高裁(国側逆転勝訴)・最高裁(納税者側逆転勝訴)と判決が変転したことから明らかなように、また、一時期、東京地裁行政部において、ある特定の部が納税者側に有利と言われたことがあったように、自由心証主義の支配する民事裁判において、裁判官・裁判所によって判決が異なるのは当然かと思われます。

 

したがいまして、当該裁判所の構成、裁判長の傾向を見極めるというのも、租税訴訟の代理人弁護士にとってはそれ相応に必要な作業になるものといえます。ただ、一般的な傾向としましては、地裁がリベラルないしソフト、高裁がコンサバティブないしハード、最高裁がその中間(もっとも、事案によっては、地裁よりリベラルでソフトか。)という感じになろうかと思われます。

 

 

自由心証主義

自由心証主義とは、裁判所が裁判の基礎となる事実を認定する場合に、その存否の認定を、審理に現れた資料状況に基づき、自由な判断によって形成する裁判官の心証(確信)に任せる原則をいいます(兼子一原著/松浦馨・新堂幸司・竹下守夫・高橋宏志・加藤新太郎・上原敏夫・高田裕成著「条解民事訴訟法」1359頁)。

 

民事訴訟法は、明文でこの原則を採用することを定めており(民事訴訟法246条)、もちろん「自由な心証」とはいっても裁判官個人のフリーハンドの自由ではなく、客観的かつ合理的な裁判官の「自由な心証」ないし経験則.論理則に照らした「自由な心証」ということになりますが、そうはいっても、裁判所は、「口頭弁論の全趣旨」つまり口頭弁論に現れた一切の状況・事情をしん酌することができるのですから、訴訟代理人は、裁判所の心証を勝ち取るべく、口頭弁論には全身全霊をかけて臨む必要があるでしょう。

 

Q4-13 納税者側が最終的に勝訴した判決にはどのようなものがあるのですか。

A

ここ3年で見ますと、最高裁が納税者側逆転勝訴を言い渡した主な判決は以下のとおりです。最高裁がだいぶ租税法律主義を意識していることは明らかですが、いわゆる武富士巨額訴訟判決への風当たりは相当なものと思われ、今後の動向が注視されます。 

 

解説

 

①最高裁平成21年12月3日第一小法廷判決・いわゆるガーンジー島判決

最高裁第一小法廷は、「ガーンジーで納付した所得税も外国法人税に該当しないとはいえない。」として高裁判決を−部破棄、地裁判決も一部取り消して、実質的に納税者側逆転勝訴判決を言い渡しました。この最高裁判決は、実務家、学者の間においてはおおむね好感を持って受け入れられているように思われますが、東京地裁、東京高裁が原告の主張を一蹴してきていたのに、これら判決を「租税法律主義にかんがみると・・・」と言ってばっさり一蹴しています。

 

②最高裁平成22年3月2日第三小法廷判決・いわゆるホステス報酬源泉判決

ホステス報酬に係る源泉所得税額の計算の誤りを税務署から指摘されて差額分の納税の告知および不納付加算税の賦課決定を受けたことから経営者側が訴訟を提起したというものです。この訴訟においては、所得税法施行令322条にいう「当該支払金額の計算期間の日数」の意義が問題となったのですが、高裁が、国側の主張を容れて、「ホステスさんの契約関係と稼働実態を前提としたその必要経費というものを考えれば、ここにいう『日数』とは、『集計期間の通算日数』ではなくて、『実際の出勤日数』をいうものと考えるべき。」としたのに対し、最高裁は、「租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきでない。普通に考えて、『期間』とは、時間的連続性を持った概念であり、これと異なる解釈を採るべき根拠となる規定もない。であれば、『日数』とは、『実際の稼働日数jではなく、『当該期間に含まれるすべての日数』を指すのは明らか。」として、高裁に差し戻しました。

 

③平成22年4月20日第三小法廷判決・長期譲渡所得の特別控除額の特例の適用の可否を判断した判決

これは、国側逆転勝訴となった平成22年4月13日判決の「市を被告とする国賠バージョン」ともいうべきものですが、長期譲渡所得の特別控除の特例の適用があるなどと市の担当職員が誤った教示をしたから更正処分等を受けて損害を被ったとして原告が国家賠償法に墓づいて被告市に対してその損害の賠償を求めたのに対し、最高裁は、担当職員の教示・指導は違法な公権力の行使に当たり、かつこれにより過少申告加算税相当額の損害が原告に発生 により過少申告加算税相当額の損害が原告に発生したとして、破棄差戻しとしました。

 

④最高裁平成22年6月3日第一小法廷判決・いわゆる固定資産税過納金国賠訴訟判決

本件は、倉庫を所有してその固定資産税等を納付してきた上告人が、各賦課決定の前提となる価格の決定には倉庫の評価を誤った違法があるとして、国賠法に基づき、被上告人に対し、15年分の固定資産税等の過納金等を請求したというもの。

 

最高裁は、「・・・たとい固定資産の価格の決定及びこれに基づく固定資産税等の賦課決定に無効事由が認められない場合であっても、公務員が納税者に対する職務上の法的義務に違背して当該固定資産の価格ないし固定資産税等の税額を過大に決定したときは、これによって損害を被った当該納税者は、地方税法432条1項本文に基づく審査の申出及び同法434条1項に基づく取消訴訟等の手続を経るまでもなく、国家賠償請求を行い得る・・・」、「・・・国家賠償法1条1項は、『国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。』と定めており、地方公共団体の公権力の行使に当たる公務員が、個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときは、当該地方公共団体がこれを賠償する責任を負う。

 

前記のとおり、地方税法は、固定資産評価審査委員会に審査を申し出ることができる事項に 審査委員会に審査を申し出ることができる事項について不服がある固定資産税等の納税者は、同委員会に対する審査の申出及びその決定に対 、同委員会に対する審査の申出及びその決定に対する取消しの訴えによってのみ争うことができる旨を規定するが、同規定は、固定資産課税台帳に登録された価格自体の修正を求める手続に関するものであって(435条1項参照)、当該価格の決定が公務員の職務上の法的義務に違背してされた場合における国家賠償責任を否定する根拠となるものではない。」と判示しました。

 

⑤最高裁平成22年7月6日第三小法廷判決・いわゆる生命保険二重課税判決

本件は、年金払い特約付きの生命保険契約に基づく年金として年金の支払を受けた上告人が、税務署長から当該年金の額から必要経費を控除した額を上告人の雑所得とするよう更正を受けたことから、当該年金は相続税法3条1項1号所定の保険金に該当していわゆるみなし相続財産に当たるから所得税法9条1項15号により所得税を課することができないとして、その一部取消しを求めたという事案ですが、最高裁は、まず、所得税法9条1項の解釈論を展開して、「・・・所得税法9条1項は、その柱書きにおいて「次に掲げる所得については、所得税を課さない。」と規定し、その15号において「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの(相続税法の規定により相続、遺贈又は個人からの贈与により取得したものとみなされるものを含む。)」を掲げている。

 

同項柱書きの規定によれば、同号にいう「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの」とは、相続等により取得し又は取得したものとみなされる財産そのものを指すのではなく、当該財産の取得によりその者に帰属する所得を指すものと解される。

 

そして、当該財産の取得によりその者に帰属する所得とは、当該財産の取得の時における価額に相当する経済的価値にほかならず、これは相続税又は贈与税の課税対象となるものであるから、同号の趣旨は、相続税又は贈与税の課税対象となる経済的価値に対しては所得税を課さないこととして、同一の経済的価値に対する相続税又は贈与税と所得税との二重課税を排除したものであると解される。」とした上で、本件へのあてはめとして、「・・・本件年金受給権は、年金の方法により支払を受ける上記保険金のうちの有期定期金債権に当たり、また、本件年金は、被相続人の死亡日を支給日とする第1回目の年金であるから、その支給額と被相続人死亡時の現在価値とが一致するものと解される。そうすると、本件年金の額は、すべて所得税の課税対象とならないから、これに対して所得税を課することは許されない・・・」と判示しました。

 

⑥最高裁平成23年2月18日第二小法廷判決・いわゆる武富十巨額訴訟判決

本件は、上告人が、その両親から外国法人に係る出資持分の贈与を受けたことにつき、所轄税務署長から相続税法(平成15年法律第8号による改正前のもの。)1条の2第1号および2条の2第1項に墓づき贈与税の決定処分および無申告加算税の賦課決定処分(以下、これらを併せて「本件各処分」という。)を受けたため、上告人は上記贈与を受けた時において国内に住所を有しておらず上記贈与に係る贈与税の納税義務を負わない旨主張して、本件各処分の取消しを求めている事案です。

 

最高裁は、「原審は、上告人が贈与税回避を可能にする状況を整えるために香港に出国するものであることを認識し、本件期間を通じて国内での滞在日数が多くなりすぎないよう滞在日数を調整していたことをもって、住所の判断に当たって香港と国内における各滞在日数の多寡を主要な要素として考慮することを否定する理由として説示するが、前記のとおり、一定の場所が住所に当たるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かによって決すべきものであり、主観的に贈与税回避の目的があったとしても、客観的な生活の実体が消滅するものではないから、上記の目的の下に各滞在日数を調整していたことをもって、現に香港での滞在日数が本件期間中の約3分の2(国内での滞在日数の約2.5倍)に及んでいる上告人について前記事実関係等の下で本件香港居宅に生活の本拠たる実体があることを否定する理由とすることはできない。

 

このことは、法が民法上の概念である「住所」を用いて課税要件を定めているため、本件の争点が上記「住所」概念の解釈適用の問題となることから導かれる帰結であるといわざるを得ず、他方、贈与税回避を可能にする状況を整えるためにあえて国外に長期の滞在をするという行為が課税実務上想定されていなかった事態であり、このような方法による贈与税回避を容認することが適当でないというのであれば、法の解釈では限界があるので、そのような事態に対応できるような立法によって対処すべきものである。」とばっさり切りました。

 

私は、この判断は租税法の解釈として至極真っ当と考えますが、物議を醸し出していることは周知のとおりであります。

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