否認事例及び誤りやすい事例
源泉所得税の調査における否認事例及び誤りやすい事例には、
どのようなものがありますか。
答え
ご紹介する事例の中には基本的なものもありますが、税務調査
の際に、問題点として指摘されるものが多く含まれています。
(1) 個人的費用の付け替え
役員の個人的な費用を請求書、領収書等を書き換え、事務用品
費として法人で処理していたもの
⇒個人的費用の会社負担については、税務調査において指摘が多
い項目であり、本例のような不正行為については重加算税の対象
となる場合があります。
(2) 表彰金
成績優秀な従業員に対する表彰金を課税対象としていなかった
もの
⇒成績優秀社員に対する表彰金等を現金で支給する場合には、金
額のいかんにかかわらず給与等(賞与)として源泉徴収が必要とな
ります。
(3) 慰安旅行費用
7泊8日の海外慰安旅行を実施したにもかかわらず、その旅行費
用を福利厚生費として処理し、参加費に対する給与等としていな
かったもの
⇒次の三つの要件すべてを満たしていない慰安旅行費用について
は、経済的利益として課税する必要があります。
① その旅行に要する期間が4泊5日(目的地が海外の場合は、現地
における滞在日数)以内であること
② 参加する従業員の数が全従業員の数(工場や支店等の単位で行
う場合には、その工場や支店等の従業員の数)が半数以上であること
③ その旅行によって従業員の受ける利益の額があまりに高額で
ないこと
(4) 慰安旅行不参加者に対する現金支給
慰安旅行の不参加者に対し、旅行に代えて現金を支給している
場合に、旅行参加者に対する課税を行っていなかったもの
⇒旅行の不参加者に対し、旅行に代えて現金を支給した場合、結
果的に従業員は、旅行参加か現金支給かを選択できることになり
ますので、全従業員について経済的利益があったものとして課税
が行われることになります。
(5) 無利息貸付け、低利貸付け
従業員に対して貸付けを行っているが、その貸付金に対する利
息を徴収していなかったもの
⇒法人が従業員に資金を貸し付ける場合、次に示す通常の利息相
当額を徴収していないときは、通常の利息相当額と実際に徴収し
ている利息との差額については、給与(経済的利益)として源泉徴
収を行う必要があります。
① 法人が他から借り入れて貸し付けた場合:その借入金の利率
② その他の場合は、貸し付けを行った日の属する租税特別措置
法第93条第2項《利子税の割合の特例》に規定する特例基準割
合による利率により評価する。
(注:特例基準割合とは、各年の前々年の十月から前年の九月ま
での各月における短期貸付けの平均利率[当該各月において銀行
が新たに行った貸付け(貸付期間が一年未満のものに限る。)に係
る利率の平均をいう。]の合計を十二で除して計算した割合[当該
割合に0.1% 未満の端数があるときは、これを切り捨てる。]とし
て各年の前年の十二月十五日までに財務大臣が告示する割合に、
年1%の割合を加算した割合をいう。)
具体的な割合は次のとおりとする。
期間(平成 年/月/日) | 年利率(%) |
H27/1/1〜H27/12/31 | 2.8 |
H26/1/1〜H26/12/31 | 2.9 |
H22/1/1〜H25/12/31 | 4.3 |
H21/1/1〜H21/12/31 | 4.5 |
H20/1/1〜H20/12/31 | 4.7 |
H19/1/1〜H19/12/31 | 4.4 |
H14/1/1〜H14/12/31 | 4.1 |
H12/1/1〜H13/12/31 | 4.5 |
ただし、災害や疾病等により多額の生活資金が必要となった場
合の貸付けや、その事業年度における利息相当額が5,000円以下と
少額な経済的利益については課税されません。
また、使用人に対し住宅取得資金を貸し付けた場合、年1%以上
の利率により利息を徴しているときは、その経済的利益について
も課税されません(平成22年12月31日まで)。
この特例は平成22年12月31日の適応期限の到来を持って廃止さ
れましたが、同日以前に使用者から住宅資金の貸し付けを受けて
いる人に対しては、廃止前の特例が引き続き適応されます。
平成23年1月1日以降、新規に使用者が使用人に対して住宅取得
資金の貸付けを行った場合については、通常の金銭貸付けの場合
と同様の取扱いとなります。
(6) 昼食代の会社補助
従業員1人あたり月額3,500円を超える昼食代を会社負担として
いる場合に、その超える部分のみを課税対象としていたもの
⇒従業員に対する食事代の補助については、従業員が半額以上負
担し、かつ、一人月額3,500円以内の会社負担であれば非課税とさ
れています。
ただし、この規定は非課税限度額を定めたものではありません
ので、会社負担額が3,500円を超えた場合、会社負担額全額が課税
対象となります。
(7) 永年勤続者に対する旅行券支給
永年勤続記念として旅行券を支給したが、その使用状況を管理
していなかったもの
⇒旅行券は有効期限の定めがなく、換金も可能なので、原則とし
て、給与等として課税が必要です。ただし、旅行券支給後相当期
間内(概ね1年程度)にその旅行に係るホテルの領収証等で旅行券の
使用状況を確認している場合には課税しなくて差し支えありません。
(8) 役員報酬の受領辞退
業績悪化のため未払であった役員報酬の受領を辞退した際、そ
の辞退額につき源泉徴収していなかったもの
⇒給与等の支払者が、源泉徴収の対象となる給与等の未払金につ
き債務免除を受けた場合、その免除を受けた時点で支払いがあっ
たものとして源泉徴収を行うこととされています。
ただし、給与等の本来の支給日前に受領を辞退した場合や、次
のような特殊事情の下において受領を辞退した場合には、源泉徴
収しなくて差し支えないものとされています。
① 整理開始命令、特別清算の開始命令を受けたこと
② 破産宣告、再生手続、更生手続開始の決定を受けたこと
③ 業績不振のため会社整理の状態に陥り、債権者集会等の協議
により債務の切捨てを行ったこと
(9) 未払役員賞与、未払配当に対する課税
1年以上未払となっている役員賞与や配当につき、その支払い
がないという理由で源泉徴収を行っていなかったもの
⇒利益処分賞与、損金不算入となる役員賞与、配当金が、その確
定日から1年を経過した日までに支払いがない場合には、その1年
を経過した日において支払いがあったものとみなして源泉徴収が
必要となります。
(10) 短期アルバイトに対する課税
あらかじめ雇用期間が2か月以内と定められているアルバイトに
対する給与に適用する源泉徴収税額を、月額表又は日額表の乙欄を
適用して計算していたもの
⇒雇用期間が2か月以内と定められている者に支給する給与で、労
働した日又は時間によって算定されるものについては、日額表の
丙欄を適用して源泉徴収税額を計算します。
(11) 扶養控除等申告書提出の有無
長期アルバイトに対して支払った給与に係る源泉徴収税額の計
算を甲欄で行っているにもかかわらず、そのアルバイトから扶養
控除等申告書を徴していなかったもの
⇒甲欄で源泉徴収を行うためには、その使用人等から扶養控除等
申告書を徴する必要があります。これは、源泉徴収事務の基本で
すが、実際の税務調査においては、扶養控除等申告書が提出され
ていない場合が多く見受けられ、乙欄による計算により追徴課税
が行われる場合があります。
(12) 中途採用者に対する年末調整
前の勤務先がある中途入社者に対し当社支給分のみで年末調整
を行っていたもの
⇒この場合、前の勤務先発行の源泉徴収票を提出させて当社支給
分と合計して年末調整を行う必要があります。なお、前の勤務先
の源泉徴収票の提出がない場合には、当社支給分のみで年末調整
を行うことはできません。
(13) 保険料控除証明書の提出
年末調整において、生命保険料控除を行っているにもかかわら
ず、保険料控除申告書に保険料支払いの事実を証明する証明書の
添付がなかったもの
⇒年末調整において、生命保険料控除や損害保険料控除、損害保
険料控除(国民年金等に係るもの)の適用を受ける場合には、原則と
して、保険料支払いの事実を証明する証明書を保険料控除申告書
に添付する必要があります。
これらの証明書の添付もれが税務調査により指摘される場合が
少なからずあります。
(14) 定年退職者に対する慰安旅行費用
定年退職者に対する慰安旅行費用を、退職を機会として行って
いることから、退職所得として課税していたもの
⇒この費用は、永年勤続表彰制度と同様の内容に基づくものであ
り、社会通念上相当と認められるものについては課税しなくても
よいと考えられます。
(15) デザイン料、原稿料等に対する源泉徴収
個人に対して支払った、デザイン料、原稿料、講演料、経営コ
ンサルタント料につき報酬料金として源泉徴収を行っていなかっ
たもの
⇒このような報酬料金については10%(1回の支払いが100万円を超
える場合、その超える部分については20%)の源泉徴収が必要です。
調査においては、スポットで支払われた報酬料金についての源泉
徴収もれがよく見受けられますので注意が必要です。
(16) 法人に対して支払う報酬料金
法人に対して支払う建築士の報酬について誤って源泉徴収して
いたもの
⇒法人に対する報酬料金の支払いについては源泉徴収する必要は
ありません。誤って源泉徴収をした場合には、所轄税務署長に誤
納還付請求書を提出し、源泉税相当額の還付を受けることになり
ます。
(17) 国内勤務期間に係る賞与に対する源泉
年の中途で3年間の海外支店勤務となった従業員に対し、転勤
後本社で支給された賞与の中に国内勤務期間に係る部分があるに
もかかわらず、その部分につき源泉徴収を行っていなかったもの
⇒非居住者が支払いを受ける給与や賞与などのうち、国内におい
て行う勤務や人的役務の提供に起因するものがあればその部分に
ついては、国内源泉所得として源泉徴収が必要です。
すなわち、次の算式により計算した額については、非居住者に
対するものとして20%の税率により源泉徴収が必要となります。
賞与の総額×国内勤務期間/賞与計算の基礎となった期間
なお、その他の部分については源泉徴収の必要はありません。
(18) 海外勤務役員の給与に対する源泉徴収
海外支店で長期間勤務している役員に対して支給した給与等
につき源泉徴収をしていなかったもの
⇒内国法人の役員として国外で勤務する場合には、その勤務は国
内において行う勤務に含まれます。したがって、その役員に対し
て支給された給与等は国内源泉所得となり、源泉徴収の必要があ
ります(租税条約に別段の定めがある場合を除きます)。
なお、次に該当する場合、その勤務は、国内における勤務には
含まれません。
① 内国法人の役員兼海外支店長のように、内国法人の使用人と
して海外支店等で常時勤務する場合
② 内国法人の役員が国外にあるその法人の子会社に常時勤務す
る場合
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