Q1. 繰延資産についての目のつけどころ
繰延資産の調査のポイントには、どのようなものがありますか。また、調査はどのように進められますか。
A. 繰延資産の調査ポイント及び調査の進め方としては次のようなものが考えられ、調査をうける法人側もこのような調査ポイントに対応した事前チェックが必要となります。
(1)繰延資産に計上すべきものを損金算入していないか
法人が支出する費用のうち、その支出の効果が1年以上に及ぶ次の費用については繰延資産として計上し、償却期間にわたり償却計算を行わなければなりません。
① 自己が便益を受ける公共的施設又は共同的施設の設置又は改良のために支出する費用
② 資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立退料その他の費用
③ 役務の提供を受けるために支出する権利金その他の費用
④ 製品等の広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用
⑤ その他、自己が便益を受けるために支出する費用
税務調査においては、法人が損金処理した支出のうち、税務上繰延資産に該当するものはないかどうかにつき、経費帳、請求書、領収証、契約書、稟議書等から検討が行われます。
会計上の繰延資産については、随時償却が認められていますが、税法固有の繰延資産については、それぞれの償却期間が法人税基本通達により定められています。
税務調査においては、その償却期間が適正かどうかということも検討されます。
特に、公共的施設等の負担金、建物を賃借するために支出した権利金等に係る償却期間の適否が、調査ではよく問題となります。
(3)繰延資産の償却開始時期は適正か
繰延資産の償却開始時期は、原則として、繰延資産となる費用の支出をした日となります。
ただし、公共的施設や共同的施設の負担金(その施設の建設等に着手した時から)や建物を賃借するために支出した権利金(その建物を賃借した時から)のように、その償却開始時期が支出した日より後となる場合のものもあり、注意が必要です。
また、分割払いにより支出した繰延資産の償却についても誤りが多いため、その適否が検討されます。
Q2.否認事例及び誤りやすい事例
繰延資産における否認事例、誤りやすい事例にはどのようなものがありますか。
A. 繰延資産における、否認事例及び誤りやすい事例としては次のようなものがあります。
(1) 大型店の新規出店に際し、地元商店街に対し支出した営業補償金(商店街の売り上げ減少分を填補するため損害賠償金)を繰延資産として計上していたもの
このような営業保償金は、新規出店のために支出されるものであり、その効果が1年以上に及ぶため、繰延資産として計上すべきであるとも考えられます。
しかし、地元商店街とは、本来、自由な競争をすべき関係にあり、このような営業補償金は、必ず支払わなくてはならない性格のものではありません。
ビルの建設による日照妨害や電波障害等に対して支払われる、損害賠償金的な補償金とも内容が異なります。
このようにして考えていきますと、この種の営業補償金は、地元商店街に金銭を与えることにより、地域内の軋轢など、新規店舗の営業活動に対する損害要因を抑えるという一種の賄賂的な性格を持ち、交際費に該当すると考えられます。
(2)地方公共団体に支払った開発負担金を一時の損金として処理していたもの
前記(1)の事例と類似したものとして、法人が固定資産として使用する土地、建物等の造成、建設等の許可を受けるために、地方公共団体に対して開発負担金等を支払わなければならない場合があります。
この負担金については、建物建設等に際しての条件としてあらかじめ約束されているものであり、支払先も地方公共団体であって公共性の高いものであるという理由から、交際費には該当しないものとされています。
このような負担金を支出した場合、その負担金等の性質により、支出した額を、その固定資産の取得価額に含めなければならない場合や、無形減価償却資産、繰延資産として計上しなければならない場合がありますので、支出した負担金の性質を確認する必要があります。
このような開発負担金の取扱いの詳細については、次回掲載予定の記事をご参照ください。
(3)国等に対して支出した、自己の必要に基づいて行う道路、堤防、その他の施設等の公共的施設の設置、改良等のために支出する費用を、国等に対する寄付金であるとして損金処理していたもの
国等に対する寄附金であっても、その寄附により、寄附した者に特別の利益が及ぶようなものについては、税務上、国等に対する寄附金に該当しないものとされています。
さらに、その寄附金が、自己の必要に基づいて行う道路、堤防、その他の施設等の公共的施設の設置、改良等のために支出する費用であれば、その費用は繰延資産として計上する必要があります。
なお、その場合の償却期間は、負担者が専ら使用する施設等であれば、その施設等の法定耐用年数の10分の7、それ以外の施設であれば10分の4となります。
国等に対する寄附金であっても、税務上そのすべてが全額損金算入となるとは限らない、ということに留意しておくべきです。
税理士をお探しの方