第15回 科目別税務調査の目のつけどころ・・・寄附金(その1)
今回からは寄附金勘定について、税務調査における調査のポイント及びその調査方法についてみていきたいと思います。寄附金は企業会計上はその全額が費用となるべきものですが、法人税法上は一定の損金算入限度額が設けられています。税務調査においても他の科目との区別、親子会社間取引等がよく問題となります。
Q1 寄附金勘定についての目のつけどころにはどのようなものがありますか。
A 寄附金勘定の調査は以下の点を中心に行われます。
① 寄附金の計上時期が妥当かどうか。
寄附金は税務上、現実に金銭や資産等を引き渡した時点で寄附があったと認識されますので、税務調査の際はその計上時期が妥当かどうかが検討されます。
②国等に対する寄附金、指定寄附金、特定公益増進法人等に対する寄附金についてはその要件を満たしているか。
これらの寄附金については一般の寄附金とは別枠で損金算入の特例が認められています。ただし、それぞれの寄附金について、指定期間、募集目的等その特例が認められる要件があり、それらの要件を満たしているかということが調査のポイントになります。
③ 個人的費用に該当するものはないか。
本来は、社長等の個人が行うべき寄附を法人で行う場合がよく見受けられます。
寄附金を計上した場合、その寄附を行った経緯等から、個人的寄附金を法人が負担していないかという点も検討されます。
④ 繰延資産に該当するものはないか。
例えば、国や地方公共団体に寄附を行った場合でも、自己が便益を受ける公共的施設を寄附したような場合はその費用は国等に対する寄附金には該当せず、繰延資産として計上しなければなりません。
⑤ 親子会社、関連会社等グループ法人間における取引価格は妥当か。
親子会社間の取引は、第三者間の取引と異なり、その取引価格を恣意的に決めること
が容易であり、その取引を通じて子会社等に利益供与を行ったり、債務免除、無利息貸付無償での人材派遣等の利益供与が行われる場合があります。
このような利益供与は原則として寄附金に該当するため、親子会社間等の取引について
は利益供与の有無が調査のポイントとなります。
Q2 寄附金勘定について、税務署の担当者はどのように調査を進めていきますか。
A 寄附金勘定について税務署の担当者は経費帳、領収証、受領証はもちろんであるが、相手からの寄附の要請書、礼状、寄附を行うことを決定した際の稟議書、役員会議事録等の資料をもとにして以下のような点を中心に調査を進めていきます。
① 領収証など証憑類からの検討
寄附金の計上時期は、現実に金銭や資産等を引き渡した時点ですので、領収証等から金 銭や資産等の動きを確認し、未払計上を行っていないかが調査されます。
また、国等に対する寄附金の場合には、採納手続きが行われたことを証する書類があ るか、指定寄附金、特定公益増進法人に対する寄附金については、寄附の要請書等からそれらの要件に該当する寄附金であるかどうか、領収証や受領証等の日付から指定期間内に寄附が行われているかどうか、ということについても調査が行われます。
② 寄附を行った経緯からの検討
寄附を行った場合、その寄附に至った経緯も検討対象になります。
例えば、本来、役員個人に寄附をお願いしたものを法人がその寄附を負担し相手方も寄附は個人から受けたという認識がある場合には、その寄附金は役員賞与に該当する可能性が高いものです。
また、国等に対する寄附の場合であれば、その寄附が自己が便益を受けるためのものであり、繰延資産に該当するものでないかどうかを確認する必要があります。
このような、寄附を行った経緯について、相手方からの要請書、稟議書、社内会議資料、寄附の申出書、採納通知者、寄附が現物で行われた場合におけるその現物にかかる請求書、領収証、請負契約書等から検討し、寄附金処理の妥当性を検討されることがあります。
③ 寄附を行った相手方からの検討
寄附金は、本来、事業との関連性がない者か、希薄な者に対して支出されるものをいいます。
したがって、寄附の相手先が事業との関連性が深い得意先や仕入先等である場合は、その寄附が何らかの見返りを期待して行われた贈答すなわち交際費に該当するのではないかという点から調査は進められます。寄附の相手方が事業関連者である場合には、その内容につき、寄附の申出書、稟議書、社内会議資料等から検討が行われることになります。
④ 親子会社間取引で寄附金に該当するものがないかの検討
親子会社間やグループ会社間取引において、商品の販売対価、固定資産の譲渡対価、受取手数料の対価などが、第三者間との取引における取引対価や時価と比べて低額でないかということを検討します。
また、子会社等に対して無利息貸付や利息免除、債権放棄、出向者の無償提供などの利益供与を行っていないかを稟議書や社内会議資料等から検討します。
なお、子会社を再建するために合理的な再建計画に基づいて支援を行っている場合、その支援にかかる費用は寄附金に該当しないこととされていますが、このような場合、再建計画の有無及びその再建計画が合理的なものであるかどうかについても再建計画書、稟議書や社内会議資料等より調査を行います。
⑤ 不正計算の有無の検討
不正計算については、領収証、決済状況、寄附に至るまでの経緯等を調査し、その寄附金の計上が簿外資金を捻出するために架空計上されているものでないか、あるいは、交際費課税や使途秘匿金課税を免れるために仮装計上されているものでないかを検討します。
また、場合によっては相手方に対する反面調査も実施されます。
〈参考〉法法37、 法令78
法基通9−4−2、9−4−2の2、9−4−3、8−1−3
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