第10回 科目別税務調査の目のつけどころ・・・棚卸資産(その2)
今回も前回に引き続き棚卸資産について税務調査で否認を受けないための対応策、否認の事例、誤りやすい事例について説明します。
Q3 棚卸資産について否認を受けないための対応策について教えてください。
A
① 棚卸に際しての原始記録を保管しておくこと。
調査の際は、まず調査担当者は棚卸を実施したときの原始記録から実際に棚卸をしたのかどうか、実施したときの棚卸数量が正しく期末棚卸高に反映されているかどうかを確認します。 したがって、棚卸をした時の原始記録を基にどのように期末棚卸高を計算し、集計したのかという過程を説明できるようにしておく必要があります。
② 期末前後の売上、仕入の状況から漏れがないか検討しておくこと。
主要商品について、決算日前1〜2か月間の仕入数量を基に、また、決算日後1〜2か月間の売上数量を基に数量計算を実施し、棚卸資産の計上漏れがないか確認します。
③ 会社の外部の在庫の有無を確認しておくこと
倉庫や外注先、仕入先等に預けてある商品、あるいは未着品などがないかを確認しておきます。
④ 評価方法、計算過程を確認しておくこと。
期末棚卸資産の評価方法が税務署に届け出た評価方法によっている、また計算過程に誤りがないかを確認しておきます。
⑤ 棚卸資産の取得価額を確認しておくこと。
仕入の際の付随費用を棚卸資産の取得価額に含めているかを確認しておきます。(仕入の付随費用の例としては買入手数料、関税、検査料などが挙げられます。)
⑥ 評価損を計上した場合その根拠を確認しておくこと。
品質低下、陳腐化等により評価損を計上した場合、その原因及び計上額の算定根拠を確認しておき、調査の際に説明できるようにしておきます。
⑦ 除却損を計上した場合それが妥当であるかどうかを確認しておくこと。
実際に棚卸資産を除却したのかどうか、また除却が期末までになされているのかどうかについて、廃棄業者の証明書や請求書等の原始記録から確認します。
Q4 棚卸資産勘定の否認事例としてはどのようなものがありますか。
A
① 棚卸の際の原始記録より
保管されている棚卸の際の原始記録を検討したところ原始記録の一部を破棄していることが明らかになったもの。あるいは、原始記録に記録されている数量の一部を改ざんしていたもの。
② 棚卸表の集計状況より
棚卸表の集計段階において故意に集計額を誤って計算し、期末棚卸高を過少に計上していたもの。
③ 在庫の現物確認調査より
倉庫などの棚卸資産の保管場所に臨場し、調査日現在の在庫の状況を確認したところ、調査対象事業年度中に購入した商品が計上漏れになっていたもの。
④ 倉庫保管料より
倉庫保管料の請求内容から検討を行ったところ、倉庫保管の棚卸商品の一部を除外していたことが把握されたもの。
⑤ 架空売上の計上
期末に仕入単価とほぼ同額の単価で架空売上を計上し棚卸除外を行い、翌期に架空売上における単価より高い単価で簿外売上を行っていたもの。
⑥ 付随費用の計上漏れ
引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料等、取得原価に含めなければならない費用を含めていなかったもの。
⑦ 低い単価による仕入
期末直前に仕入先に依頼して、異常に低い単価で仕入を行い、期末棚卸資産の単価を引き下げていたもの。なお、翌期首の直後には、前回単価を引き下げた見返りに仕入単価は高めに設定されていた。
⑧ 未成工事支出金に係る工事原価の付け替え
未成工事支出金に係る工事原価を、完成工事に係る原価に付け替えて期末の未成工事支出金を過少に計上していたもの。
⑨ 廃棄損の計上時期誤り
廃棄したとされる商品の廃棄状況を廃棄業者からの請求書等から検討したところ、期末までに廃棄処分が行われていなかったもの。
Q5 棚卸資産勘定について誤りやすい事例を教えてください。
A
① 引取運賃、運送保険料、購入手数料の金額が少額であるからという理由で棚卸資産の取得価額に含めなかった事例
棚卸資産購入に際しての付随費用は引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税等の外部付随費用と買入事務、検収、整理、選別、配送等の内部付随費用に分類される。 内部付随費用については、棚卸資産の購入代価のおおむね3%以内の少額なものであればその棚卸資産の取得価額に含めないことができるが、外部付随費用についてはたとえ少額であってもその棚卸資産の取得価額に含めなければなりません。
② いわゆる規格製品のような代替性のある棚卸資産について個別法を適用していたもの
個別法をいわゆる規格製品について適用した場合、会社にとって都合のよい価額を恣意的につけられる可能性があるため、適用できないことになっています。
③ 2年前に変更した棚卸資産の評価方法を今回また変更しようとしていたもの
棚卸資産の評価方法の変更は、現によっている評価方法を採用してから相当期間(3年)経過していることが必要です。ただし例外的に認められるケースもあります。
④ 物価変動、過剰生産、建値の変更等の理由により棚卸資産の評価損を計上していたもの
棚卸資産については、破損、型崩れ,棚ざらし、品質低下、災害等による著しい損傷、著しい陳腐化が生じた場合などには、評価損の計上が認められますが、単に物価変動、過剰生産、建値の変更等の理由だけでは評価損の計上は認められません。
〈参考法令〉法法29,32,33 法令28,29,30,68法基通5−1−1、5−2−1、5−2−20、9−1−6
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