6回 科目別税務調査の目のつけどころ・・・仕入
仕入勘定も売上勘定とともに税務調査においては重点的な調査科目です。今回は仕入勘定について税務署の目のつけどころ、調査方法、対応策等を述べていきたいと思います。
Q1仕入勘定について税務署の目のつけどころとしてはどのようなものがありますか。
A 仕入勘定の調査は、架空仕入がないか、仕入の繰上計上がないかという点を中心に行われます。以下主なポイントを挙げていきます。
① 架空仕入(注)はないか
税務署の調査は不正発見が主な目的であることからまずこの点を重点的に調査します。
具体的には法人(あるいは事業者)が記帳している帳簿や、保管している証憑類を様々な角度から検討します。
(注)架空仕入とは意図的に仕入取引がないのにかかわらず帳簿に記載して仕入があったように仮装することです。
② 仕入れの繰上計上はないか
適正な期間損益計算の観点からの検討で、本来翌期に計上すべき仕入を当期に計上していないかという点を調査します。
③ 簿外仕入、簿外売上はないか
仕入を簿外にすれば法人にとって不利になりますが、簿外仕入と同時に簿外売上を行う場合も想定されるため調査では簿外仕入の有無も検討します。
④ 仕入値引、返品の処理は妥当か
仕入値引、返品が確定しているにもかかわらず未処理となっていないかを検討します。
Q2 仕入勘定について税務署はどのように調査を進めますか
A 税務署の調査担当者によって進め方は様々ですがおおむね次のような点を中心に調査を進めていきます。
① 取引の流れ、法人(事業者)が作成している帳簿等の把握
まず事業概況を把握するため発注から入荷、検収、代金決済までの流れを聞きその流れに従って各段階でどのような帳簿等を作成しているか、またどのような証憑類が保管されているか、どのような事実や帳簿等をもとに仕入を計上しているかを検討します。そして、このような流れの中で架空仕入や仕入繰上計上の有無を調査します。
② 仕入の計上時期の妥当性の検討
商品等の流れからみて仕入れの計上時期が妥当かどうか検討します。また期末前の仕入の納品書を調査しその中に翌期のものが含まれていないかを検討します。
③ 仕入代金の決済状況等からの検討
例えば通常は代金決済が振込であるが特定取引だけ現金決済である等イレギュラーな取引について決済が妥当かどうか検討します。
④ 取引態様からの検討
スポット取引、遠隔地取引、取引金額がラウンド数字のもの等についてその計上が妥当かどうか検討します。
⑤ 買掛金残高からの検討
長期にわたり買掛金残高が多額の取引先について、架空仕入、仕入取消、返品,値引の事実の有無等を検討します。
⑥ 証憑類からの検討
市販の領収証等を使っているもの、手書きのものなどを中心に不審な証憑類を抽出し架空仕入の有無を検討します。
⑦ 反面調査の実施
以上の調査により不審な仕入先が把握された場合、その仕入先に対して反面調査を実施し、その取引の妥当性を検討する場合もあります。
Q3 仕入勘定について否認をされない対応策はありますか。
A 物の流れや、代金決済状況等から事前に仕入や仕入値引、戻し、返品の計上時期について妥当かどうか再確認しておくことが必要です。対応策としては次のようなものがあげられます。
① 物の流れからの確認と整理
売上の場合と同様モノの流れからの検討が重要です。納品書、検収書控、入庫記録などからモノの流れを把握し、実際に計上すべき日に仕入を計上しているかを再度確認します。
また調査の際には自社で作成している帳簿や証憑類を基に物の流れとお金の流れを示し仕入をどの時点で計上しているかを、税務調査の担当者に説明できるよう整理しておくことが必要です。
② 買掛金残高からの確認
買掛金残高が多額になっている仕入先に対してその原因を解明することにより仕入れの金額が過大になっていないか確認しておくことが必要です。
③ 翌期の仕入値引、戻し、返品等からの検討
Q4 仕入勘定否認の例としてはどのようなものがありますか。
A 仕入勘定否認の例としては次のようなものがあります。
① 現金取引、スポット取引(単発取引)からの否認事例
現金取引、スポット取引(単発取引)の仕入先に対して反面調査を実施したところ架空の取引であった。
② 証憑類の検討からの否認事例
市販の領収書や請求書のある取引先からの仕入が架空であった。
③ 買掛金残高からの検討による否認事例
買掛金残高が多額の仕入先について検討したところ、仕入の返品処理が計上漏れであった。
④ 仕入単価の変動からの検討による否認事例
利益調整のために当期の仕入単価を過大に計上し翌期に仕入値引の形で訂正処理をしていた。
⑤ 商品入荷記録からの検討による否認事例
倉庫における入荷記録がない仕入を検討したところ架空であった。
⑥ 工事原価の付け替え
建設業において、未成工事(期末時点で未完成の工事)に係る原材料等の工事原価を完成工事原価に付け替えていた。
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