Q4-2 どのような場合に租税訴訟を提起したらよいのでしょうか。租税訴訟を提起することのメリット、デメリットについて教えてください。
A
質問検査権に基づく調査(税務調査)を受けて修正申告の慫慂をされてもなお事実上も法律上も納得できず、かつ、課税庁側の見立てを覆すそれ相応の事実関係(事情)とこれを支える証拠関係がそろっているときに、裁判を起こす、つまり、租税訴訟を提起します。租税訴訟提起のメリットは、払いすぎた税金が戻ってくること、デメリットは、時間と費用を要することです。
解説
租税訴訟は裁判ですので、訴状に貼る印紙代や弁護士・税理士に支払う着手金等の費用がかかります。また、東京地裁行政部における審理のスピードが格段にアップしたとはいっても、それでもなお訴訟提起から判決まで最短で1年は要します。しかも、いわゆるビジネス・口一としての租税訴訟においては勝訴率が上がってきているとはいっても、課税庁側に勝訴するのはやはり極めて大変なことであることには変わりがありません。
したがって、「課税庁側の見立ては事実認定・法律解釈として誤っており納得できないので最後まで戦い抜く」という納税者側の確固たる覚悟・決意があり、かつ、課税庁側の見立てを覆せそうな相応の事実関係、これを支える証拠、法的見解がある場合にのみ、租税訴訟を提起すべきでしょう。払いすぎた税金が戻ってくるかもしれないという甘い期待に重きを置くことは禁物です。ハイレベルの戦いがハイレベルの審判の下でされるのですから、貸金返還請求訴訟のような通常の民事裁判と同様に考えてはなりません。時間が経営資源であることにかんがみれば、訴訟準備に割かれる時間を考慮してもなお戦い抜くという納税者側の強い意識が必要不可欠に思われます。
もっとも、課税庁側の見立てを覆せそうな「相応の」事実関係、法律解釈、そしてこれらを支える証拠があるのであれば、上記納税者側の固い決意の存在を前提に、訴訟に踏み切ってみる価値はあろうかと思います。そもそも、租税訴訟における主張立証責任は、原則課税庁側にあります。また、事実関係の立証の成否、証拠の評価はやってみないと分からないという面もあります。したがって、事実関係、法律解釈、証拠価値の事前の十全な精査・検討が必要であることはもちろんですが、上記精査検討に基づいて「常識に照らしてどう考えても どう考えてもおかしい」と判断される場合には、裁判所の判断を仰いでみるというのも選択肢としてありかと思います。
租税訴訟のメリット・デメリット
メリット
・払いすぎた税金の取り戻し
・納税者側の納得
デメリット
・費用が掛かる
・時間を要する
ビジネス・ロー(ビジネス・マーケット)としての租税訴訟
最近では、講演会などにおいて、「租税訴訟分野はビジネス・口一(ビジネス・マーケット)化されてきた」などとよくいわれます。要するに、大企業や有名企業を原告とする大型・国際租税訴訟、活発に事業活動を行う中小企業や高額所得者を原告とする高額租税訴訟が増えてきた、ということなのだろうと思います。確かに、このような傾向は見られるところであり、このような裁判においてはいわゆる大手渉外弁護士事務所が単独または共同で原告訴訟代理人を担当して、課税庁側(国)と華々しく戦っています。租税訴訟がいわば「稼げる」訴訟分野になるなど、20年前には考えられなかったことですが、上述したような傾向が租税法の解釈を深くかつ新たにしている側面もあり、「租税訴訟のビジネス・口一化」はそれなりに評価されるべきものと思われます。
還付加算金
国税局長、税務署長等は、還付金等があるときは、遅滞なく金銭で還付しなければならず(国税通則法56条1項)、還付する場合には、その金額に7.3%の割合を乗じて計算した金額を加算して還付しなければなりません(同法58条1項)。もっとも、租税特別措置法95条、93条によって、現時点では、特例基準割合である年4.3%が加算されることになっています。そこで、いわゆる武富士訴訟においては、納税済み額約1,3OO億円に当該特例基準割合および年数を乗じた額である約400億円もの巨額の還付加算金が支払われるということになったわけです。どうやら還付金総額では毎年7〜8兆円もの支払を国は行っているようですが(日経新聞電子版2011年5月16日付け記事)、市場金利との乖離は明らかであり、今後は、延滞税率も含め、この加算率の合理性が議論されていくことになりましょう。